小学校だより 2026年1月

2025.12.22  No.466  校長 山口 旬

クリスマスには奇跡がおきやすい

 クリスマスイブの夜、LAのナカトミプラザを武装集団が占拠する。彼らの目的は大金庫からの強盗。しかし超厳重デジタルロックを解除するには奇跡が必要だ。「安心しろ、今日はクリスマスだ。奇跡には事欠かん」かくしてFBIが地域一帯の電源を遮断したことでロックが解除。強盗団は奇跡が起きたぞと大喜び。しかしそこにはみ出し刑事が一人…ご存じ大ヒット映画「ダイ・ハード」。良くも悪くもクリスマスには奇跡が起こるものなのです。少なくとも物語的には。
 110年前、第一次世界大戦が始まったとき、世界は大喜びしていました。やった戦争だ!ばんざい! なぜ喜ぶ。戦争とは勝てばなんでももらえるから。ジャイアンは勝ってスネ夫からおもちゃを取り上げる。のび太からうばう。帝国主義の時代、戦争とは植民地を得ることのできる素晴らしいもの、勝てば賠償金を得て国がますます豊かになる。そして数十年間大きな戦争のなかった欧州では、若者たちにとって戦争とは憧れでありロマンあふれる冒険であり、祖国の英雄になれるチャンスだったのです。俺は敵をバッタバッタとやっつける憧れのヒーローになるんだ。みんな勝つことしか考えてない。負けることは想定外。負けたら植民地にされ多額の賠償金を支払うことになるなんて考えもしない。
 当初だれもがこの戦争は数週間で終わると信じ、英雄として凱旋し故郷に錦を飾るつもりだった。だから最初は敵も味方もこういった。「勲章もらってクリスマスには帰ってくるから」「今度のクリスマスは戦争に勝ったお祝いをしよう」 
 ところが終わらない。塹壕戦は膠着し、泥と寒さに飢えとネズミの塹壕は悲惨を極め地獄のような戦いが4年続く。一番激しかったのはドイツとフランス国境の西部戦線。ヨーロッパはみなキリスト教国、欧州の戦いはみなイエスキリストを信じる人々の戦い。欧米では従軍牧師がいることも多く戦場で毎日お祈りする。神さま、イエス様、今日も敵をやっつけられますように。古来、戦場での祈りとは必ず相手の死を願うもの。信長も桶狭間で熱田の神に祈りを捧げていたし、新田義貞も南無八幡我を渡らせたまえと稲村ケ崎で祈った。どの宗教も我を守り給えと祈るものです。それって聖書の教えなのかと単純に思う。イエスは敵を愛せよと言わなかったっけ? おそらく今の戦争もそう。だからクリスマスになっても戦いは続く。
 12月24日の夜、クリスマスに帰るはずだった故郷に戻れない兵士たち。塹壕の中に即席のツリーを飾り、せめてクリスマスを祝おうとみんな思っていた。ドイツの部隊が塹壕の中で讃美歌を歌った。(誰が先かは諸説あり) 至近距離の塹壕戦、お互いの会話すら相手の陣地までばっちり聞こえる。敵陣から聞こえる讃美歌を聞いてフランスの兵隊も歌いだした。イギリスの陣地でもバグパイプの伴奏で讃美歌を歌いはじめた。気が付いたら敵も味方もいっしょに讃美歌を歌っている。歌詞は違えどクリスマスの讃美歌のメロディーは万国共通だし敵も味方もみんなキリスト教徒。お互いクリスマスには勝って故郷に帰るつもりで望郷の念もひとしお。しみじみと歌うクリスマス讃美歌のメロディーと歌詞が心にしみる。
 誰かが言う。ねえ、今日くらいは戦闘やめない? だってクリスマスだぜ。
 いろいろあってフランスもドイツもイギリスも、じゃ、クリスマスだから今日は戦争中止。明日戦いましょうということになり塹壕を出てパーティーが始まった。どこぞの国の従軍牧師が礼拝をはじめ、昼まで殺し合っていた兵隊たちが一緒になってクリスマス礼拝を守っている。礼拝後はクリスマス祝会ということでワインで乾杯。
夜遅くお別れをする。「じゃあ朝からまた敵味方ですな、お互いご武運を」
 翌日はクリスマス当日。しかし昨夜イブを祝ったばかりでクリスマス当日に戦闘する気にもなれない。じゃあクリスマスだし今日一日も休戦ってことで。ワインを飲んだり国別対抗でサッカーしたり。気が付けばすっかり仲良くなってしまった。で、クリスマスが終わって戦闘再開、いやもう戦えない。だってきのう一緒に歌って食べて楽しく過ごした人たち同士。いまさら引き金を引くことはできなくなってしまった。味方の砲撃が始まると互いに敵を招いて自分の陣地に避難させる始末。戦争してるんだからこんなことしちゃマズイことくらいわかっている。でも…。戦争がなかったら友達になれたのに。
 その後、あそこの部隊はどうも怪しいちっとも戦果があがらないと司令部から上官が来てみたら、こいつらちっとも戦う気配がない。空に向けて銃を撃ち、敵と仲良くなっていることがバレてしまった。双方敵と内通した罪を問われ、東部戦線に送られたり軍法会議にかけられたり別の激戦地に送られてしまう。今でこそ美談になっているけれど当時は厳しい処分が下され、その場にいた兵士たちのほとんどはその後3年続いた大戦で戦死したそうな。このクリスマス休戦を題材にした「戦場のアリア」という映画のラストは、敵と仲良くなってしまったドイツの部隊がロシアと戦うべく東部戦線に送られていく。
 その時の奇跡は今でも語り継がれ、絵本にもなって小学校の図書館にも置かれています。
 現在戦闘中のどこの国でもクリスマスだけは休戦しようという動きは必ず起こる。イスラム国家でもクリスマスは休日になっている国は多い。この日には確かに奇跡がおこる素地がある。クリスマスにはそういう力があるのです。

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