小学校だより 2025年2月

2025.01.31  No.456  校長 山口 旬

ヒーローは人ために尽くす

 1月の新橋演舞場は市川團十郎による「双仮名手本三升・裏表忠臣蔵」、昼夜通しで観てきました。まあ仮名手本忠臣蔵のダイジェスト&入門編でしたがちゃんと忠臣蔵でした。かつては年末になると紅白の裏に対抗して民放が必ず忠臣蔵を制作し、時代劇ファンは今年は誰が大石内蔵助を演じるかで盛り上がっていたものです。ところが最近はめっきり時代劇が衰退し、6年歴史の授業でもみんな水戸黄門も遠山の金さんも暴れん坊将軍も知らないので話が通じないこと夥しい。当然忠臣蔵ドラマも映画も作られなくなり、12月14日の討入りの日も誰も騒がない。せっかく泉岳寺なんだから京急沿線の我々はこだわってもいいんですけどね。(ここまでの話、すでにちんぷんかんぷんの人も多いのでは。それが現状)
 それが昨年は「侍タイムスリッパ―」で時代劇復活の狼煙をあげ、「SHOGUN将軍」が世界的にヒット。正月時代劇で暴れん坊将軍新作でうれしやうれし、大富豪同心も歌舞伎化されめでたいことこの上なし。国立劇場再建が頓挫落胆する中、久しぶりに時代劇熱がジワジワとあがりそして3月は歌舞伎座で仮名手本忠臣蔵通し上演でウキウキ。歌舞伎も文楽も客の入りが悪いと忠臣蔵で客を戻す。忠臣蔵こそ日本の心であるとマニアは確信しておるのですが、何故そこまで愛されているのかちょいと持論で失礼をば。
 鎌倉時代の損得勘定を前提とした契約「御恩」と「奉公」は、いざ鎌倉と駆けつけるのと引き換えに、手柄を立てれば敵から奪った領地をもらう。この時代は領地がすべて。蒙古襲来の折、敵を撃退したにもかかわらず、御恩としての領地をもらえなかった。だってモンゴルから領地を奪ったわけではなく、追い返しただけで土地をゲットしてないんだもの仕方がない。でも領地目当てだった御家人たちは不満タラタラ。それがひいては倒幕につながります。
 それに対して日本史キャラ人気トップ3は損得抜きで忠義を尽くした者たち。悲劇の英雄義経に命捧げた立往生の弁慶、豊臣のために死に花を咲かせる大突撃で家康を追い詰めた真田幸村、誠一字に命を懸けて幕府に殉じる新選組。諸説異論はあれども歴史マニアの人気者は、負けるとわかっていて損得抜きで主のために命を散らした者たちです。彼らは「主君のために命を捨てる、これほど大きな忠義はない」から人気者なのです。つまり自己犠牲、己の欲得のためではなく誰かのために力を尽くす。スーパー戦隊もウルトラマンもしかり。愛だの友情だのこっぱずかしくて口にはしづらいまっとうなことを堂々と言ってくれるのがヒーローものなのです。そこに感動して心打たれちゃう。
 聖書にも「友のために自分の命を捨てる、これほど大きな愛はない」(ヨハネ15.13)とあります。
古今東西やはり人の心に響くもの、その本質は誰かのために尽くす姿なのです。家族のため友のため見えぬ人のため。自分ではない誰かのために力を尽くす姿はどんなヒーローも同じ。
 で、この忠臣蔵も「我が殿の切っ先三寸届かざりしを、われら家臣一同殿の無念を晴らすべく参上仕り候、目指すは本所松坂町狙うは吉良上野介ただ一人に御座候」てなわけで歌舞伎にしろ文楽にしろ映画にしろ古典芸能ファンとしては忠臣蔵というだけで血沸き肉躍るのであります。

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