小学校だより 2024年7月-2

2024.7.19  No.449  校長 山口 旬

好きなことを信じる力② ヒトデの挫折

 忘れもしない小学5年生の夏休み。私は母の親友が住んでいるということで北海道利尻島に行きました。
 真夏でも上着を着るくらい涼しい最北端の島。水辺にはウニや昆布がたくさん。さすが利尻島。でも小学生の私は水辺にたくさんいるヒトデに夢中になりました。色とりどりのヒトデ。片っ端から捕まえてカンカン照りの岩の上へ。こうして書くと残酷~と言われそうですが、早い話がミイラにして剥製を作っていたのです。
 数十匹のヒトデのミイラコレクションに狂喜乱舞した私は、夏休みのお土産がたくさん出来たことに大満足。こんなにステキなお土産あげたらさぞ友達は喜ぶだろう。なんてステキな計画。これでクラスの人気者になること間違いなしだ。みんなスゲースゲーといって奪い合いになるぞこりゃ、いや~まいったなあ。どれどれ、この赤いのはあの子に上げよう。このシマシマのはあいつだな。もう並べてはうっとりながめ、ヒトデを配る光景を思い浮かべてクラスの人気者になる想像をするだけで口元がムフフ状態に。9月になり、ウホウホしながら大きな箱にミイラヒトデをたっぷり詰め込んでいざ学校へ。この箱を開けた時のみんなの反応を想像するともうウキウキしちゃう。今日はもうヒーローだぜ。
 さて、教室では夏休みの自慢話に花が咲いている。そこへ大きな箱を持って乗り込んでいき、さあキミたちにありがたーい土産を差し上げよう、東京の地では絶対手に入ることのないレアな土産だぞ、各々方頭が高い控えおろう。
 さて箱を開けた時の歓声や如何に。うわーとかおおーという声。皆がわが箱の中を覗き込む、机の周りには人だかり。よーししてやったり。これですよこれ。待ってたのよこの反応。いいねえこの驚嘆の声。
 されどそれは歓喜感嘆の声ではなく、まごうことなき嫌悪の声でした。なんだこれ、気持ち悪い! やめろバカ! うわこっち来るなくせえ! お前何考えてんだよ嫌がらせか? 女子にいたってはキャーキャー悲鳴上げてあっちへ行っちゃった。 …え? なにこの反応。キミたち、どうしたの? ヒトデだよ? すごいでしょ、きれいでしょ、おもしろいでしょ…あれあれ、なんでこういう反応なの? こんな素晴らしいもの、よく見た? 超盛り上がるとこでしょここは。
 一人取り残され、聞こえてくるのは我が身の非難と悪評そして軽蔑の単語。あいつバカじゃないか。こんなもの持ってくるなんておかしいんじゃないの。信じらんない。気持ち悪い。ヒトデとかいってなんなのあいつ。やっぱあいつヘン。
 その時悟ったのです。どうやら私以外の人間はヒトデを好きではないらしい。どうやら私は世間一般のみんなとは美的感覚が違うらしい。そうか私の趣味は特異なのか。たしかにみんなガンダムとキン肉マン命だけど自分はウルトラマンとスーパー戦隊が好きだしなあ。私のオタク自覚原体験。そして周囲からの変な奴認定異端烙印記念日。
 でも好きなものを変えることはできません。みんなが好きだから好き。みんなが持ってるからほしい。そういう価値観もあるでしょう。そういう人はみんな同じものを持ち、食べて満足すればいい。されど自分だけが知っているこの価値。みんなが知らないこの素晴らしさが自分にはわかるという満足感。真のオタクはオタクと言われることに誇りを持ちます(諸説異論各論あり)。それは人が知らない価値を自分だけが知っているという誇りなのです。
 好きなものは好きと言えるのは幸せなことです。好きなことを信じる力。それは人に言われるからではなく、自分の生き方に直結します。長い夏休み、いろんな経験をしてチャレンジをして好きなことを見つけてください。
 私は今でも珍獣(含ヒトデ)が大好きです。

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